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むさしの自然観察園公式ブログ

むさしの自然観察園は身近な自然環境について学ぶために2005年7月にオープンした武蔵野市の施設です。
数百種類に及ぶ植物が栽培されており、園内では季節の花々を楽しむことができます。また管理棟内では水生生物などを飼育しています。

  • 12月 マンリョウ(万両) サクラソウ科

     インド~東アジアの温暖な地域に広く分布し、日本では関東地方以西~沖縄に自生し、庭園木の根際などによく植えられている。野鳥により種子散布されるほか、こぼれ種子でもよく繁殖する。観察園のマンリョウも植えたものではなく、園内のあちこちに実生が見られる。その繁殖力のためか、米国フロリダ州では外来有害植物とされ、駆除の対象となっており、豪州でも熱帯雨林の環境を破壊する環境植物とされている。

     一方、日本では、葉の緑は永遠の命、赤い実は幸せを表象し、そして「難」を「転」ずるので、ナンテン(南天→難転)が鎌倉時代あたりから、縁起のよい低木として庭に植えられるようになった。その流れで、江戸時代後期には冬でも葉が緑で赤い実をつけるセンリョウ(仙蓼)が、正月飾りに使われるようになり、「仙蓼」は「千両」と呼ばれるようになった。そして、センリョウよりも多く実が成る通称ヤマタチバナ(山橘)は「万両」と名付けられ、実がより少ないカラタチバナ(唐橘、サクラソウ科)は「百両」、順にヤブコウジは「十両」、アカモノ(ツツジ科)は「一両」、実が多いミヤマシキミ(深山樒、ミカン科)は「億両」と、言葉遊びのように名付けられた。のちにアカモノ(ツツジ科)に代わりアリドオシ(蟻通し、アカネ科)が一両と呼ばれるようになったが、これはセンリョウ、マンリョウ、アリドオシを一緒に植えることにより、千両、万両、有り通しに通じるとしての験担ぎのためである。

     徳川家康、秀忠、家光と三代続いて植物好きであった影響で、徳川時代は武士から平民まで、園芸熱が盛んになった。アサガオ、ナデシコ、キク、ツバキなど、多くの品種がうみだされた。1860~1861年に来日した植物学者でありプラントハンターのロバート・フォーチュンは、「日本人の国民性の著しい特色は、庶民でも生来の花好きであることだ。花を愛する国民性が、人間の文化的レベルの高さを証明する物であるとすれば、日本の庶民は我が国の庶民と比べると、ずっと勝っているとみえる」という言葉を著書『幕末日本探訪記―江戸と北京―』に残している。

     家康公はオモトが大好きで、日光東照宮にはオモトの木彫が31もある。その影響か、武士たちはオモト、カラタチバナ、マツバラン、セッコク、ミヤマウズラ、ツワブキなどの斑入り、矮小、異形葉など、突然変異により生じた異品を熱心に栽培し、高額で取引することがなされた。カラタチバナやマンリョウなどの異品は明治以降の戦争で絶えてしまったが、オモト、セッコクなどは古典植物として今でもその多くが残っている。

     こうした突然変異によって出現した「異品」の栽培は、徳川時代の次男坊・三男坊など家督を継げない下級武士にとっては慰めや小遣い稼ぎになっていたろう。拙宅でも狭くて日陰勝ちの庭には、ツワブキ、ヤブラン、ムサシアブミなどの、葉が真っ白な異品が植わっている。これらは、薄給サラリーマンで定年退職した筆者が手にするささやかな贅沢品であり、女房に内緒で福沢諭吉の紙幣と交換して手にしたもので、日々幼子をいたわるように愛培している。

  • 12月 アシズリノジギク(足摺野路菊)キク科

     ノジギクの亜種で、高知県の足摺岬から愛媛県の佐田岬(さだみさき)に分布するとされている。しかし、豊後水道を挟んだ大分県のホームページでは、大分県の国東海岸、姫島、豊後水道域、宮崎に分布するとあり、豊後水道域の海岸沿いの路傍や崖に生育し、個体数も多いが、道路工事、埋立工事などの影響で生育地の減少が懸念されると書いてある。

     母種のノジギクは、兵庫県以西の本州・四国・九州の瀬戸内海および太平洋沿岸近くの山野に自生。同じような地域に分布している。アシズリノジギクは、野路というよりも、海岸近くの環境に適応した種であると考えられる。アシズリノジギクの特徴として、葉はノジギクより小型で3中裂し、葉裏や葉柄に潮風対策として、白い毛が密生し、葉表からみて白毛が葉縁を白く縁取っているように見えるとされている。ノジギクは葉がより大きく、3中裂から5中裂し、葉縁の白い縁取りは目立たないことが違いだ。しかし、アシズリノジギクの白い縁取りは、イソギクほど明確ではなく(イソギクの項を参照)、5中裂に近い3中裂の葉もあるので、種の同定は難しい。

     似たものに、セトノジギク(瀬戸内海沿岸に分布し、ノジギクよりも葉が薄い)があり、その他シマカンギク(近畿地方以西の本州・四国・九州の海岸近くに分布、花は黄色のほか白もある)など、同じキク属だけで15種あり、ノコンギクなどのシオン属、オオユウガギクなどのヨメナ属、ヤマジノギクなどのハマベノギク属、ハマギク属、ミヤマヨメナ属、キオン属など、全部で95種類もあるようだ。

     年老いた頭では、これら同定する際の特徴を覚えられない。間違った名前で呼びかけても、プイっと横向くこともなく、変わらず笑顔で咲いている。伊藤佐千夫の『野菊の墓』で出てくる民代が愛した野菊は、なんという名前なのだろうか?それだけは覚えたい。

  • 12月 アカエグリバ(赤抉り翅)ヤガ科

     虫によって齧り取られた(えぐられた)葉の、紅葉が終わり赤褐色の枯葉状態になった切片に擬態しているガ(蛾)である。葉脈に見える筋もあり、普通の人は3㎝ほどの大きさの本種が目の前にいても全く気が付かない。見事な擬態である。

     幼虫が食べる植物(食草)はアオツヅラフジとなっているが、アケビも食べるとの情報もある。成虫の出現時期は3月~11月とされているが、1月、2月にも見られた記録もある。成虫越冬するのだろうか。成虫は熟したカキやミカンなどの果汁を吸いに夜間飛来するようだ。

     食草のアオツヅラフジはツヅラフジ科のつる性木本で、低山の林縁などに生え、晩秋に小さな球状の果実がブドウのように房状に結実し碧く熟して目立つようになる。観察園には生えておらず、筆者は武蔵野市では見ていない。なぜ、観察園でアカエグリバが見られたのかが気になる。観察園のミカンはヒヨドリなどに嘴でつつかれ、中味がむき出しになっているので、成虫は果汁を吸うことができる。だが、幼虫の食草のアオツヅラフジは生えていない。かわりに同じ属のツヅラフジ(オオツヅラフジ)が生えている。これも食草としているのか、あるいはアケビがあるので、これが食草なのか、不明である。

     日本では、愛好者の多いチョウは,迷蝶、偶産種、外国の移入種を含めて329種知られているが、ガは6,000種以上生息し、生態が不明なものが多く、新種が発見される可能性も極めて高い。そのためか、大学の農学部ではガの研究をする女子学生が増えていると聞く。観察園でムシを怖がる男児の来園がしばしばあるが、「ムシ愛ずる小姫君(女児)」が増えているのも確かであり、これも女性の社会進出の兆しのように見えて頼もしく思える。穿ちすぎかなぁ。

  • 12月 ツワブキ(石蕗、艶蕗)キク科

     海岸近くの岩場などに自生し、10~12月の初冬から冬にかけて黄色い花を咲かせる。日本風庭園の石組の下や樹木の根元など、日陰がちの場所によく植えられ、葉柄は食用としても知られている。

     フキノトウで知られる身近なフキ(蕗)は、秋に葉が枯れる夏緑性であり、ツワブキは冬でも葉が枯れずに、何年も生き残れる常緑多年草で、フキとは別属の植物。潮風から身を守るため、葉は厚肉で艶があり、葉裏には毛が多く生えている。葉の間から花茎をのばし、キクに似た頭状花を咲かせる。

     ツワブキの和名の由来は、葉に艶があるので艶葉蕗(ツヤハブキ)や、葉が厚いのでの厚葉蕗(アツハフキ)等から転じたとの説がある。茎を食用とされてきたことからか各地に地方名が多く、イシブキ、オカバス、ツワほか、沖縄方言ではチィパッパなど多数ある。島根県の津和野の地名は、ツワ(ツワブキ)が多く生えている所からの名前と言われている。

     沖縄ではチィパッパの名前が好まれているようで、タクシー会社、茶屋、バー、デイサービス、マリンピアの名前などに使われている。そしてチィパッパの語源については、小さな黄色い花がパッと咲いている様子を擬音化したものと言われている・・・・が、筆者は納得できない。モノの名前は、言われた第三者が「あのモノのことだな」と想像しやすい言葉であるはずだ。小さな花がパッと咲いていると言っても、そんな花は多数あり、ツワブキを想像するのは困難だ。故に、謎のままである。またまた、筆者の追尋する思考癖のビョーキが出てしまった。失礼。

     さて、ツワブキは食用とされるが、ピロリジディンpyrrolizidineという有毒物質を持っている。従って、まずは湯通しして茎の皮を剥ぎ、芯が柔らかくなるまで2%塩水で茹でたあと、一晩冷水にさらしてアクを抜く下処理が必要だ。こうした処理をして作ったキャラブキは、味が濃く、美味しい。1年で枯れて地上部を捨て去るフキと異なり、常緑のツワブキは、虫や鳥獣からの食害を防止する毒その他をため込んでおり、コストをかけて茎や葉を作っている。コスト高であるだけに味が濃く、美味しいのだろうか。

  • 12月の観察園だよりを発行しました

    春を待つ冬芽たち ~ シロモジ、コクサギ、ネジキなど
    そのほか、園内で見られる生きものも紹介しています。

    観察園だよりは、こちらからご覧になれます。