10月 エノキ(榎) アサ科

 北海道を除く日本全国の里地・里山に自生する落葉高木で、身近の山野でよく見られる樹木である。以前は近縁のムクノキとともに、ニレ科に分類されていたが、現在ではアサ科に分類されている。

 秋に橙褐色の果実がなり、ほんのり甘い。登呂遺跡からは種子が多量にでてきたので、古代人は食料にしていた可能性もある。近代においても砂糖が貴重であった時期は、子供達が口にして甘さを楽しんだ。同様に、野鳥の好物となっており、多くの野鳥が果実を啄みに訪れる。またエノキの葉は、ゴマダラチョウ、テングチョウ、ヒオドシチョウ、葉と材は、法隆寺の玉虫厨子で有名なタマムシなど、多くの昆虫類のエサとなっており、特に日本の国蝶であるオオムラサキの食樹としてよく知られている。そして、各地の多くの神社でご神木となっている。

 このように極めて身近な樹木であれば、地方名が多数あるのが一般的であるが、奇妙なことに、エノキは、地方独特の地方名がなく、日本全国で「エ」がつくか、または「エ」音が転訛したと思われる「ヨ」、「ユ」がつく地方名になっている。『日本植物方言集成』八坂書房によれば、「エノミ(青森、岩手、仙台、新潟、静岡、山口、大分)」、「エノミキ(八丈島、宮城、佐渡、長野、三重、高知、八女、熊本)」、「エノンノキ(出雲)」、あるいは「ユノキ(富山)」、「ユノミノキ(長野)」、「ヨノキ(岐阜、志賀、和歌山、鳥取、愛媛)」といった具合である。従って、エノキは「エの木」が語源であろうと筆者は考える。なぜ、全国的にこの名前が広がったのか、何かの意味をもつ、特別の木であったのだろう。

 エノキの漢字は日本では「榎」であるが、中国では「朴」であり、占うという意味がある。「榎」は日本で作られた国字である。近縁のムクノキは「椋」であるが、訓読みでは「クラ」とも読み、古語では「クラ」は「拠り所」の意味をもつ。

 筆者は、このことから、エノキもムクノキも中国・朝鮮では霊木的な存在であり、その思想が日本にも伝わり、神の居場所・神の依(よ)り所として崇められ、「依(エ)の木」と呼ばれたことが始原であろうと考える。それゆえ、村落の境界には道祖神が祀られ、エノキが植えられた。東海道の一里塚にも、旅人を守る樹木としてエノキが植えられた・・・と考えたい。多くの神社のご神木となっているのも、そのためだろう。