8月の植物 カクトラノオ(角虎の尾、フィソステギア) シソ科

北米東北部の原産で、明治時代末期~大正時代に日本に渡来した。対暑性も耐寒性もあり、陽当たりの悪い所でもよく繁殖して、ほぼ野生化しているのを見る。長い穂状の花序の下の方から徐々に咲き始める。日の当たり具合により株によって開花時期がズレるので、お盆の頃から10月末まで長いこと次々と開花する。花色は白~ピンク、薄紫があり、派手な花ではないが、蜜も花粉も充分にあるようで、色々な昆虫が集まる。チョウではキアゲハ、クロアゲハなどのアゲハチョウ類が訪れるが、モンシロチョウやヤマトシジミなどの中型~小型のチョウは吸蜜に訪れない。カクトラノオの個々の花は長い筒型なので、大型で蜜を吸う口吻が長いアゲハチョウの仲間でないと、花筒の底にある蜜に口吻が届かない。花の身としては、なるべく同じカクトラノオの花粉を運んで貰いたいわけで、そのため吸蜜可能者を限定することにより、カクトラノオの花粉をもった媒介者の訪れる機会を多くし、受粉確率を上げている。そんな企みをおくびにも出さず、しれっとした顔で今日も静かに咲いている。

8月の生きもの ヒメアカタテハ(姫赤立羽)

関東では夏から秋にかけて見かけることが多くなる種で、ツマグロヒョウモンの雌によく似ている。日当たりの良い草原や田畑の周辺などでよく見られる。食草はハハコグサ、ヨモギなどのキク科、カラムシ(イラクサ科)、ゼニアオイ(アオイ科)、ダイズ(マメ科)など、チョウとしては珍しい雑食性(寡食性)がある。本種は日本全国、北海道~沖縄まで分布しているだけでなく、北極圏からアフリカ、オーストラリアまで、南極大陸を除くすべての大陸に分布する、広域分布種、汎存種、現代風に言えばコスモポリタンである。
西欧では西アフリカを春に飛び立った本種は、世代交代しながら約15,000キロ北方のアイスランドまで分布を広げ、夏の終わりに、何百万匹という群をなして高度500mの上空を平均時速45キロで、南を目指して帰ることが最近判明した。この「渡り」をするチョウとしては、メキシコ~カナダ4,800キロを往復するオオカバマダラ、長野県~台湾2,500キロを往復するアサギマダラが知られているが、日本では本種の「渡り」については認識不足であった。だが、去年(2019)8月5日、午前1時~3時ごろ、新潟県粟島の北17キロの海上で集魚灯をつけた釣り船に、1万匹ほどのヒメアカタテハが集まった。北上する「渡り」の途中であったと考えられるが、夜間に大群で渡りが行われるという新しい発見に、昆虫学者達は衝撃を受けている。

8月の植物 クリ(栗)

山歩きをしていて、生命エネルギーを体一杯に感じるのは、クリの花が咲くころだ。春の新芽は成長し、若葉が広がって山全体が美しい緑に覆われる。クリの花には多くのチョウやアブが訪れ、山が生き生きとしている。クリは雌雄同株で、細長い穂状の雄花序の下の方、雄花と少し離れた基部に雌花序が1~3個ついている。クリの受粉は、農学では風媒とされている。雄花は開花時に独特の強い香りを放出して昆虫を誘うが、花蜜を分泌するのは雄花だけで、雌花には分泌器官がない。訪花昆虫は雄花に滞在し、極くまれに雌花で散見されるだけの状況であり、自家受粉しないので、風媒によって自然受粉しているとの考えだ。 一方、植物学では虫媒と考えられている。クリの花粉の飛散距離は極めて短く、計測した結果では、樹冠から約20mの範囲で大半が落下することが判明している。いずれにせよ、縄文時代の三内丸山遺跡周辺には、クリを栽培している純林があり、現代でもクリ栽培では結実数を増やすためか、多数のクリの木がまとまって植えられており、そのためクリ畑を呼ばれている。むさしの自然観察園では、品種が異なるクリの木を各1本、10m離した場所植えており、よく結実している。だが、クリの木の枝下に植えたダンコウバイ、オオバアサガラなどの他の樹木の成長がいずれも著しく悪い。クリの葉の裏側には腺点が多数ある。ここから他の植物の成長をおさえるアレロパシー(他感作用)物質を発散しているのではないかと、この頃考えるようになった。そういえば、クリ畑の下は、イネ科の短い雑草ぐらいしか生えていない。林床がきれいだ。アレロパシー物質のせいではないかと思う。

8月の植物 ナガイモ(長薯)

ナガイモはヤマノイモ(自然薯)と葉の形がよく似ている。ヤマノイモの葉形は縦長のハート形であり、ナガイモも同様に縦長のハート形であるが、葉身の基部がヒルガオの葉のように左右に少し張り出している。ハート形というよりも、古代武器の、ほこ(鉾、矛)の穂先に似た葉形というべきか。スーパーなどで、真空パックされたぶつ切りのイモが販売されているが、これはナガイモであってヤマノイモがこのように販売されることは稀有。ナガイモは1年の栽培で出荷できるほどイモが太く大きくなるが、ヤマノイモは5年ほどかかり(10㎝/年程度の成長)、ナガイモの3~5倍の価格で売られている。成長が遅いだけに、ヤマノイモはナガイモ類(ツクネイモ、イチョウイモなどを含む)よりも味が濃厚で強いネバリがある。広重の「東海道五十三次」には、東海道20番目の鞠子宿(丸子宿)を描いた作品があり、それには「名物とろろ汁」の立て看板がある茶屋(丁子屋)が描かれている。丁子屋は慶長元年(1596年)の開店以来、400年以上の年月を現在と同じ場所(静岡市駿河区丸子)で営業している。途中、富士山の噴火、明治維新、大震災、戦争があったが、店を続けている粘り腰には敬服する。ヤマノイモは滋養強壮材として有名で「山ウナギ」の別名もあるが、ナガイモも夏バテに効くようだ。今夜は生のままとろろ汁か、短冊切りにして食べてみよう。

8月の植物 ケイトウ

ケイトウの原産地は熱帯地方で、日本には奈良時代に中国を経由して渡来。古くは韓藍(からあい)と呼ばれ、その紅色の花汁を写し染めに用いたようだ。私が小学生だった頃は、庭の花壇の片隅に仏壇に供える花を栽培するコーナーがあり、祖母はそこに百日草(ジニア)、金盞花(カレンデュラ)、花魁草(フロックス)、菊など、いずれも切り花に使えるよう花期が長い花を植えていた。そこにはかならず鶏頭(ケロシア)も植わっていた。子ども心には、鶏のトサカに似た奇妙な形で、毒々しい赤色であり、花弁が短くモサモサした触感の花は、好きになれず、単に暑苦しく感じる嫌な花だった。だが、今では品種改良されて、トサカケイトウ・グループのほか、久留米ケイトウ、槍ケイトウ、羽毛ケイトウ、野ケイトウなど5つ形のグループがある。色彩も赤のほか鮮紅色、緋色、橙、黄色、白などがあり、庭先をあでやかに彩る花に変質した。写真の花は野ケイトウGr.の品種で名はシャロン。花穂を陰干しすれば、シルバーピンク色の美しいドライフラワーとなる。

8月の植物 キジョラン(鬼女蘭)

山地の林内や林縁部に生える常緑のつる性の多年草。大きく成長すると、茎は木質化する。8~11月に白い花を咲かせ、楕円形でアボカドと同程度の大きな果実が出来るが、熟するのは翌年の秋。約1年かけて果実が熟すると果実は割れて、中から長さ2~3㎝にもなる白くて長い種髪をつけた種子がムワァーと飛び出す。その様子を長毛白髪を振り乱した鬼女の狂乱状態にみたてて、キジョラン・鬼女乱、否、鬼女蘭の名がついた。しかし、蘭の仲間ではなく、毒草のガガイモの仲間で、アサギマダラという蝶の食草となっている。この種髪は長くて軽いので、息を潜めて注視している人の、呼吸による僅かな空気の動きでも、その空気の流れで種髪は生き物のように動き出す。
江戸時代以降の民間伝承で、謎の未確認生物とされているものに「ケサラン・パサラン」がある。この正体はキジョランの種髪である可能性が高いと思う。だが、「持ち主に幸せが舞い込む」と信じられ、ケサラン・パサランを大切に保管している人もいるようだから、むやみに種明かしするのは止めておこうか・・・・。

8月の植物 オニドコロ

トロロ汁で親しんでいるヤマノイモ(ヤマイモ、自然薯)と同じ仲間であるが、本種のイモは苦くて有毒。ヤマノイモの葉はふつう対生(稀に互生)し、葉身は三角状披針形で、基部が凹んだ細長いハート形である。雌雄異株で雌株は葉脇にムカゴを作る。花は白色。一方、本種の葉は互生し、葉身は幅の広いハート形で、葉脇にムカゴを作らない。花は黄緑色。ヤマノイモのイモは円柱状だが、本種のイモは生姜の根のように膨らんだ場所と縮んだ場所がありのデコボコで、髭根が非常に多い。昔は単にトコロ(土古呂、都古侶)と呼ばれていたが、後世に、体が曲がりヒゲのある海の老人は「海老」、トコロは根茎が曲がってヒゲ根が多いので野の老人だとして「野老」の字が充てられた。オニドコロの根は、長寿を願ってとも、トコロ(所領)の安堵を願ってとも言われ、正月飾りに欠かせないものとなった。
ところで(!)、埼玉県の所沢市は、トコロが沢山自生していたからの地名と言われているが、どうも怪しい。アマドコロ、ハシリドコロなど、名前にトコロとつく植物は他にもある。気になりいろいろ調べた。共通項は根がゴツゴツとしてデコボコになっていることだ。縄文語と見られるポリネシア語ではトコル(ルは接尾語)は「膨らむ」、「盛り上がる」、「嵩が増大する」などの意味があり、床の間も寝床も一段と盛り上がった場所にある。所沢は、柳瀬川、東川、不老川などによる浸食から逃れて、一段高く残っている台地(武蔵野台地)の意味ではなかろうか?

8月の植物 ナツズイセン

古代に中国から渡来した帰化植物で、本州~九州の人里近くの山野、草地、道端などに自生する球根植物。ヒガンバナの仲間だが、葉の形が、より幅広のスイセンの葉に似ており、夏に花を咲かせることからの名前。早春に葉を出し、夏前に葉は枯れ、真夏になると花径を伸ばし、先端に数輪のピンク色の花をつける。リコリス・スプレンゲリ(Lycolis sprengeri、ムラサキキツネノカミソリ)によく似た花だが、ナツズイセンはピンク一色に対し、スプレンゲリはピンクの花弁の先端が青色を帯びることで識別できる。それもそのはず、ナツズイセンはL. sprengeri とL.Incarnata (タヌキのカミソリ)あるいはリコリス・ストラミネア(L.straminea)との自然交配種と見られている。土葬が一般的な時代は、ネズミその他の獣による墓荒らしを防ぐため、球根が有毒なヒガンバナなどLycolis 類が墓周辺に植えられた。それゆえ好まれる花ではなかった。しかし欧米では人気があり、交配により色々な品種が生まれている。そのためか、火葬が一般的になったためか、日本でも人気が出始めた。

8月の生きもの ニイニイゼミ

6月の終わりから7月の始め頃に現れる。動物の鳴き声を人間の言葉で言い表すのは困難だが、「チーーー」とも「ジージージー・・・・」とも聞こえ、少し離れて聞くと「ニーニーニー・・・・」と、細く高周波の金属音に聞こえる。小生の場合は、長年悩んでいる静かな耳鳴りの音と酷似している。
松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と俳句に読んだセミについて、歌人の斎藤茂吉はアブラゼミであると主張したことがあり、大論争が巻き起こった。芭蕉が山形市宝珠山立石寺を元禄2(1689)年5月27日(今の暦では7月13日頃にあたる)に訪れて俳句に読んだ史実を基に現地調査を行なった結果、7月13日ごろではニイニイゼミは鳴くが、アブラゼミはまだ鳴かないことが判明し、茂吉も非を認め論争は治まった。
他のセミと異なり、本種の抜け殻は泥だらけなことから、地面に湿気を好むセミと見られていた。1964年の東京オリンピックの頃から、東京の市街地では本種の数は極めて減少しつつあり、都市化による土地の乾燥によるものと推測されていた。ところが近年は、またニイニイゼミが増加してきているようで、その理由が分かっていない。まさか、先のオリンピックは見逃したから今度こそという訳でもあるまいし、自然のことは分かっていないことが多い。

8月の植物 タイタンビカス

花は20~25㎝の大輪で、草丈2~3mに成長する。一つの花は一日花であるが、株立ちした大株になると次々と開花するので、大きな花が多数咲いて、美しさと存在感に圧倒される。ハイビスカスの花を大きくしたような花姿で、繁殖・成長力の圧倒的な強さから、「巨神タイタン」に因んで「タイタンビカス」と名付けられたようだ。アメリカフヨウとモミジアオイの交配選抜種で、三重県津市の赤塚植物園が作出し、2009年から全国販売された全く新しい園芸品種であり、絶大な人気を誇っている。
だが、小生は名前が気に入らない。巨大で強靭だからタイタンは良いとして、ビカスとはなんだ?意味不明の言葉で、これではどんな植物かも想像がつかない。ハイビスカスのハイを省略し、更にビスカスのスを省略してビカス・・・・か。日本人がすきな省略語だ。和名もなく、どこの国の言葉でどんな意味かもわからないタイタンビカス、これがこの秀逸で見事な花の正式名称である。可哀そうだ。