10月 オヤマボクチ(雄山火口)キク科

 アザミの仲間の多年草で、山菜としては「ヤマゴボウ」と呼ばれている。ヤマホクチの語源は、山に自生していて茸毛(じょうもう、葉の裏に生えている毛)が、火口(ほくち、火打石で火を起こすとき最初に火花を受け止めて着火させ火を燃え上がらせるための燃料)として用いられたからである。本種は本州西部以南に分布するヤマホクチに比べ、本州東部以北に自生し、葉茎が大型でゴツイ感がある草姿なので、オスのヤマホクチの名がついた。すなわち、山の名前ではなく、オ(雄)+ヤマホクチ(山火口)である。
 花期は9月 – 11月。花茎の先に暗紫色の4 – 5cmの頭花を下向きに付ける。この花が咲き終わると、野山で見られる野草の花は見納めになる。現代では火口としての用途はないが、特殊な用途として、蕎麦粉の「つなぎ」として知られている。そば粉のつなぎとしては小麦粉が多いが、ヤマイモ、玉子、布海苔(ふのり)、そしてヤマホクチ(ヤマゴボウ)があり、そのような珍しいつなぎを使っていることを、ウリにしている。

10月 アイ(藍、アイタデ)タデ科

 アイは東南アジア原産で、日本には飛鳥~奈良時代に中国から朝鮮半島を経て伝来した。木綿糸の量産が可能となった江戸時代以降には作業着から高級衣装まで、あらゆる布が藍染めとなった。それは徳川幕府が「奢侈禁止令」を発令し、町人による絹、錦などの染色を禁止したので、町人は藍染木綿の着物を着ざるを得ず、農民も藍染の木綿の野良着を着用し、職人の労働着としても普及した。そして、商人の暖簾や風呂敷、布団にまで広まった。火消しが藍染めの半纏を用いたのは、火事による温度変化に対する強度が強かったからであり、火縄銃の火縄が藍染めの糸で編んだ縄で出来ていたのも、一時に燃え上がらず細く燃え続ける性質が役立ったからのようだ。
 この様相を見て、明治8年に政府に招聘されて来日し東京開成学校の教授となったロバート・アトキンソンは、「日本においてはアイを染料となし、これを使用するの量、極めて大なり」と語り、「ジャパンブルー」と呼んだ。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)も同じようなことを述べている。浮世絵の影響もあり、海外でも「ジャパンブルー」の認識が高まった。国旗に藍色が使われていないのに、国際大会でサムライジャパンなどが藍色のユニフォームを着るのは、こうした背景があるからであろう。

10月 タチアワユキセンダングサ(立泡雪栴檀草)キク科

 タチアワユキセンダングサ(別名オオバナセンダングサ、Bidens pilosa var. radiata)は、熱帯アメリカ原産で繁殖力は非常に強く、侵略的外来種と考えられている。江戸時代(弘化1844~48年)に観賞用に導入され、約120年後の1963年に高知県で野生化が初めて確認された。現在では、高知県ほか鹿児島県、沖縄諸島、小笠原諸島に定着している。沖縄ではサトウキビの強害雑草とされる。そのためもあり環境省の「生態系被害防止外来種」にリストアップされ、「南西諸島や小笠原諸島といった生物多様性の保全上重要な地域で繁茂している。このような場所には、持ち込まない。」と記されている。 だが、南西諸島の宮古島では、本種の学名から名付けられた「宮古ビデンスピローサ」の名で、「抗酸化作用」「抗炎症作用」「アレルギー抑制作用」に著しい効果があるとして、健康茶や粉末カプセルが製造され、島をあげて大々的に宣伝・販売している。効能については学会に論文が多数だされており、近年ではガンに効く効能があるとして熱心に研究が進められている。
 また、花期が長く良い蜜がとれるので、養蜂家にとっては大切な植物であり、オオゴマダラほか南国の華麗なチョウが多数集まる訪蝶花で、チョウの繁殖に貢献している。その意味では生物多様性に貢献している。
 雑草とは、目的外の草を指す。サトウキビ栽培では雑草、宮古島では薬草、養蜂家では蜜源となる有用植物である。他の希少植物の生育阻害の観点からは雑草だが、チョウの繁殖の観点からは大切な蜜源植物となる。人間の都合で、雑草とみなされたり、有用植物とみなされたり、タチアワユキセンダングサは、人間の顔色を伺いながら、住む場所を選ぶべきか?

10月 ナタマメ(鉈豆)マメ科

 ナタマメ(鉈豆、Canavalia gladiata)は蔓性の一年草。原産地は熱帯アジアまたはアフリカで、日本へは江戸時代初頭に清から渡来。漢方薬として知られており、近年では健康食品・健康茶としても知られるようになった。古くからの身近な食材としては福神漬けの材料になっている。夏に白またはピンク色の花を咲かせ、実の莢は非常に長大になり、大きなものでは長さ30~50㎝、幅5㎝ほどになる。そのため「帯刀(たてわき)」の別名があり、英名ではSword-beanの名がある。

10月 シモバシラ(霜柱、雪寄せ草)シソ科

 シソ科の宿根性多年草で日本固有種。関東地方以南の本州から九州にかけて分布する。草丈は40㎝~70㎝ほどで木質化し、9月~10月に白い穂状の花を咲かせる。冬には枯れて葉が落ちた茎が地上部に残る。厳寒期に地表近くの気温が0℃以下に下がると、地下の根は活動していて吸い上げた水分が枯れ茎に届き、そこで氷結がおきるが、次々と水分が届けられるので、氷結した部分は押し出され、枯れ茎のまわりに綿あめのように大きくなり氷の華が出来る。雪を掃き寄せたようになることから、雪寄せ草の別名がある。この氷の華の形は奇想天外な形をしており、山野草好きな多くの人々は、高尾山のもみじ台の北側巻き道まで鑑賞に出かける。ここは日陰なので朝日に当たって、あるいは気温が上がって、氷の華が溶けてなくなる時間が遅いからである。
 むさしの自然観察園では、シモバシラは旺盛に繁殖するが、市街地ゆえに気温が高く、氷の華は朝10時頃には殆ど溶けて消えてしまう。50年ほど前、陸上競技場の横の麦畑では、朝の通勤時に畑一面に霜柱が立って土を持ちあげている風景が見られたが、温暖化のためか今では霜柱が立つことも少なく、シモバシラの氷の華をみることも難しくなった。

10月 シロバナマンジュシャゲ(白花曼殊沙華)ヒガンバナ科

 彼岸花の白い花の別名だが、これも三倍体で種子はできないとのこと。牧野富太郎博士は、シロバナマンジュシャゲは、黄色いショウキズイセンとヒガンバナの交雑種であると断定したが、両者とも三倍体であるのに交雑種ができるのはおかしい。近年の遺伝子解析により、コヒガンバナ(ヒガンバナの2倍体)と、コヒガンバナの祖先において、突然変異で出現したショウキズイセン(2倍体)との交雑種であると認定された。すなわち、ヒガンバナ(3倍体)の原産地において、コヒガンバナ(2倍体)が当然自生するが、このコヒガンバナは古い時代に突然変異でショウキズイセンを生み出し、後世にショウキズイセンとコヒガンバナの交雑でシロバナマンジュシャゲが生まれたということで、いわば近親交配である。コヒガンバナは2倍体なので種子をつけるが、花径に花はせいぜい4つしかつけない。ヒガンバナ(3倍体)は花を6つ付けるが種子はつけない。ゆえに、花が多くて美しく、種子をつけないため球根の発達が良いことから、ヒガンバナ(3倍体)が全国にひろまった可能性がある。

10月 レモンエゴマ(檸檬荏胡麻)シソ科

 1913年(大正2年)に、牧野富太郎が高尾山で発見・命名した野草で、エゴマに似ていて、葉にレモンの香りがすることからの名前。東南アジア原産のエゴマの変種であり、本州中部以南~九州に産する。エゴマ栽培の本場は関西であるのに、エゴマが野生化して出来たレモンエゴマを高尾山で見つけたということから、高尾山の特異な植生と明治の植物学の創期が偲ばれる。 和名のエゴマ(荏胡麻)の荏(ジン)は漢語でエゴマを指し、朝鮮語ではエの発音と昔の日本人は理解していた模様で、源順『和名類聚抄』934年には、荏は「和名衣(和名はエ)」、小野嵐山『本草綱目啓蒙10』1806には「荏はヱ」と記している。エゴマのゴマ(胡麻)は、胡の国(トルキスタンなどペシャ系の民族が住んでいる国)の麻(アサ)の意味であるから、レモンエゴマの名前はレモンの英語、エゴマのエは朝鮮、ゴマのゴはペルシャ、マは中国・・・と、なんとまぁ、4か国が絡んでいる。

10月 ツリフネソウ(吊船草)ツリフネソウ科

 ツリフネソウ(吊舟草、Impatiens textorii)は、日本、朝鮮半島~中国、ロシア島南部に自生する1年草で、東南アジア原産のホウセンカ(鳳仙花、Impatiens balsamina)にそっくりである。ホウセンカの花では蜜を溜めた距は下方にCの字に曲がって突き出しているが、ツリフネソウの距は渦を巻いているので区別できる。ホウセンカは暑さに強く、丈夫で育てやすいので、昔は夏花壇の花としてよく植えられた。ただ、草の頂部に葉が多く、花が葉の下に隠れて咲くので、主役にはなれなかった。それにしては、鳳仙花は大げさな名前である。ツリフネソウは竹を切って作った花器の「吊舟」から付けられた名前と言われている。奥ゆかしい名前だ。ツリフネソウは葉の脇から長い花径を伸ばし、群がって咲くので、花期は見事である。ただ水分を欲るので、現在では山地の麓の木陰や水辺でしか見られない。 今から30年前、市内の成蹊大学周辺の凹地にあったお屋敷の、庭木が鬱蒼と茂る樹下に、取り残された雑草に交じってツリフネソウがひっそりと咲いていた。だが、20年前には消えてしまった。温暖化が進んだ今日、ツリフネソウは市街地では見ることのできない花となっている。

10月 オオバナオケラ(大花朮)キク科

 写真の花はオオバナオケラ(Atractylodes ovata)で中国の湖南、湖北、江西、浙江、安徽など中国中部に分布する。日本で見るオケラ(Atractylodes japonica、ウケラ )は花弁が白色で基部が淡紅色の、アザミ似た筒状花が房状に集まった花を咲かせる。本州~九州、朝鮮半島、中国東北部に産し、日当たりがよく水はけがよい丘陵地や山地に生える多年草で、その頭状花は、魚の骨を想起させる苞に囲まれた特異な形状をしている。 特異な花の色と形状は、古くから注目されたようで、「恋しけば 袖も振らむを武蔵野の うけらが花の 色に出(ず)なゆめ:恋しくなったら袖を振りましょう。武蔵野のオケラの花のように、表だって悟られるようなことをしないでください」をはじめ、万葉集に3首が歌われている。
 オケラの根茎は、精油成分を含み、主な成分は、アトラクチロジンで、健胃・整腸剤として、古くから朮(じゅつ)という生薬として利用された。また屠蘇散にも用いられる。「山でうまいはオケラにトトキ…」と俚謡で唄われるほど、新芽は山菜としてよく知られている。7月のツリガネニンジン(トトキ)の項で述べたが、オケラもさほど美味しいものではない。

9月 ナンバンギセル(南蛮煙管)ハマウツボ科

 南蛮煙管とは、いわゆるマドロスパイプのことで、オランダの船員(matroos)が口にくわえていたパイプを指す。刻みタバコを吸うときに葉を詰めて火をつける煙管の火皿の部分が、日本の煙管よりも大きかった。また、火皿と吸い口をつなぐ軸(羅宇)の部分が短くて、咥えて口にぶら下げることのできるように大きく湾曲していた。日本の軸(羅宇)は長く、竹でできていて、煙管は手で支え持つことが必要だ。ナンバンギセルは、その花と花茎の形がマドロスパイプの形に似ているところからの名前である。淡紫色の花と花茎が10~20㎝前後地上に出て、地下にごく短い茎と鱗片葉が数枚あるだけの寄生植物で、野山のススキの根に寄生し、7月~9月、根元で開花している。暑い時期であるが、穂がでていないススキの、長い葉を押し上げて根元をよく探すというマニアックな作業をすると、運が良ければ、こっそり咲いている姿を見つけることができる。 観察園では、ミョウガの子(花穂)を採ろうとして根元にナンバンギセルが発生しているのをみつけた。驚いて調べてみると、多くのイネ科やカヤツリグサ科などの単子葉植物、例えば、ススキ、サトウキビほか、ミョウガ、ギボウシ、そしてユッカなど木本にまで寄生している事実が判明。その訳を考えると、単子葉植物特有の繊維状の根が、寄生しやすいからと考えられる。となると、これからトウモロコシ、小麦などにも寄生する可能性もあり、寄生されると収穫量が減ることになる・・・・大変だ。