2月 雪割草 キンポウゲ科

 表題に片仮名でなく漢字で雪割草と書いたが、訳がある。片仮名で書くと、サクラソウ科のユキワリソウを意味するからだ。「雪割草」と漢字で書いた場合はキンポウゲ科ミスミソウ属のミスミソウ、オオミスミソウ、スハマソウ、ケスハマソウの4種の総称となる。

 則ち、ユキワリソウは、特に谷川岳、日光至仏山、白馬八方尾根などの蛇紋岩地帯で多く見られる高山帯に自生しているサクラソウ科サクラソウ属の多年草の名前であり、栽培は難しく、一般市場にはあまり出回らない。

 一方、「雪割草」と漢字で書いた場合は、キンポウゲ科の上記4種の園芸名であり、総称である。それゆえ口頭で園芸店に問合せたり、誰かに説明する際は「キンポウゲ科の雪割草」と伝えることが必要となる。

 さて雪割草は、高山植物のユキワリソウよりも栽培難度は高くないが、根腐れや葉焼けしやすい植物である。その中でオオミスミソウは比較的栽培が容易で、他の3種の花色が白、時にピンクと限定的であるのに対して、オオミスミソウは、白、桃、赤、紫、黄色、黄緑色など色彩に富み美しいので人気がある。それゆえ、「雪割草」は、オオミスミソウの代名詞ともなっている。なんともややこしい。

 このオオミスミソウ、即ち雪割草はほぼ新潟県に産地が限られており、新潟県の県花となっている。ユキツバキ、ヒメサユリ、タニウツギなど、美しい花の自生地として新潟県は知られている。しかし、なぜ新潟県が産地なのか。日本酒の銘酒も新潟県に多い。美人の産地(?)としても有名だ。ほかに美人の産地としては、秋田、新潟、金沢、京都、鳥取、博多と、日本海側の1県おきが美人の産地と言われている。比較的降雪が多く水がきれいだからか・・・と、女房の前でうっかり声に出して呟いたら、大分県出身の女房は不機嫌な顔で「それは貴方の偏見ョ」と、筆者のあれこれ脈絡なく思考する遊戯は、バッサリ断ち切られてしまった。

2月 ジョウビタキのメス

 中国東北部やロシアの極東部沿海地方から、毎年冬に日本にやってくる渡り鳥。スズメよりも少し小さい大きさで、冬は身近な鳥なのだが、気づかないことが多い。しかし、竹箒で落ち葉を掃き寄せていると、どこからか必ずと言ってよいほど現れる。枯葉の下に隠れていたクモ、ゴミムシ、ネキリムシなどガの幼虫を採餌するためだ。山の中では、猪や鹿の歩く後をつけ回しているのだろうか。

 否、人間の枯葉を掃除する音を聞きつけて、むき出しになった昆虫などを見つけるほうが、ずっと効率がよいと判断してのことだろう。賢い鳥である。だが、人間を恐れず、ミルワームなどで餌づけると、手のひらの餌を食べるようにもなるようだ。縄張り意識が強く、車のサイドミラーに写った自分の姿をめがけて、飛び掛かる姿もよく見られる。それゆえバカヒタキとも言われている。

 雄の頭部は白銀色で、胸~腹はオレンジ色、翼は黒色であるが、雌は全体に灰色がかった褐色で、翼は濃褐色であり、雌雄で羽の色が異なる。雌雄の共通点は、翼に白い紋があることであり、そのためモンツキドリとか、モンツキサンという愛称もある。

 それにしては、なんとも難しい名前だ。ジョウ(尉)とは、翁と同様に高齢の男性を意味する言葉で、雄の頭部が銀白色であることから、人間の白髪を連想したものである。そしてヒタキとは、火焚きであり、鳴き声がキッキッキッともカッカッカッとも聞こえる火打石を叩くような音から名付けられたようだ。高齢となった筆者には、こうした高周波の声はあまりよく聞き取れない。故に枯葉掃きをしていて、近寄って来た白い紋つきで、来たなぁと見分けている。

 観察園を開園して4~5年間は、雄が毎年やってきて縄張りとしていた。が、ここ10年あまりは、世相を反映してか、毎年雌が縄張りにしている。晩秋に繁殖地の中国東北部やロシアの極東部沿海地方から日本に渡ってきて、3月には繁殖地に戻る。体重わずか13g~20gの小さい体で、よくぞ海を越えて往復できるなぁと感心する。春一番など春の嵐の風に、枯葉のように風に乗って海を渡るのだろうか。思わず、紋付さん、頑張れ!と声をかけたくなる。

2月 マンサク( 金縷梅 、万作)マンサク科

マンサクの以前の解説はこちら

 2月~3月の早春、他の花に先駆けて「真っ先」に咲くことから「まんさく」の名がついたという説がある。落葉灌木で、枝一杯に明るい黄色の花をつけるが、花弁が細くよじれているためか、黄色い太陽光を反射する力は弱く、ボォーッと霞んだ光の塊りのように見える。早春の象徴的な花であるにもかかわらず、枯れた雑木林の中で、まだ春は遠いのですが・・と、極めて遠慮がちに咲いている。

 この時期は、シベリアからの寒気団と南太平洋からの暖気団とが押し合いをしている時期で、たまに暖かい晴天があるが、翌日には冷たい雨やみぞれや、雪になったりする。概して北風が冷たい曇り日が多い。水原秋櫻子は「まんさくや 小雪となりし 朝の雨」と詠んだ。そんな日々の中では、マンサクのぼんやりとした黄色い光の塊りは、春到来の兆しを感じて、心の中が温かくなる。

 現代では存在感が薄くなったマンサクであるが、昔の日本、特に雪国では大切な樹木であった。雪の上を歩くと靴が雪の下に埋もれ歩くのに難渋するが、雪の下に埋もれないよう「輪かんじき」を履くのが必須条件であった。マンサクの枝は強靭で柔軟性があり、腐りにくいので、曲げて輪にする輪かんじきの材料として適材だった。現在はアルミ製となっているようだが、足の裏の動きに合わせてしなるマンサクの材の方が足の疲れは少なく長時間歩行に向いている。

 マンサクの英名はWitchhazelという。則ち魔女のハシバミの意味だ。花を金髪を振り乱した魔女に例え、葉の形がハシバミ(ヘーゼル・ナッツ)の木の葉に似ているとみての命名のように思われる。だが、事実は違うようだ。もとはWitch(魔女)ではなく、Wych(しなやかな枝)であったようだ。発音が似ていること、そして葉や材はタンニンをふくみ、止血・収斂・消炎などに顕著な効能をしめしたことも、魔女のイメージを高めたのではなかろうか。

 マンサクを用いた輪かんじきは、雪がこびりつかず歩きやすいと言われている。これはマンサクの材が含むタンニンの防水性・撥水性によるものだろうか。筆者には分からない。昔の人の細やかな観察眼と知恵に、今さらながら感服する次第である。