7月 モクズガニ(藻屑蟹) イワガニ科

 北海道~沖縄の川に生息するカニで、甲羅の幅は8~10㎝、体重は180~200gと、川に産するカニの中では大型種。食用として有名な「上海蟹」(チュウゴクモクズガニ)の同属異種であり、同様に美味なため国内各地で食用とされ、ズガニ、ツガニ、ヤマタロウなどの地方名も多い。鋏をもつ脚に濃い褐色の毛が生えるのが特徴で、脱皮直後の毛は白髪のように白色だが、次第に黒くなり、鋏に藻屑が絡まった様に見えるところから、藻屑ガニの標準和名となった。

 食性は、カワニナなどの貝類や両生類、小魚などを捕食し、共食いの場面に出会うことから、肉食性と考えられていた。しかし、捕らえた野生の個体の胃内容物を調べると、殆どは川底から集められた枯れた植物の破片や、石の表面に着いた糸状緑藻類が殆どであることから、植物食が本来の食性であり、肉食は機会的である雑食性とされている。

 繁殖は、親が秋から冬にかけて降河して、塩分濃度の高い潮間~潮下帯で交尾し、20万から100万個の直径0.3~0.4㎜の卵を産卵する。ウナギと同様の「降河回遊」性の産卵である。水温に応じて2週間~2ヶ月かけて、孵化するまで腹肢に卵を抱え保護する。甲幅が5㎜程度になると淡水域に遡上し、上流まで分布域を拡げる。

 観察園で展示のモクズガニは、伊豆狩野川上流の用水路で捕獲されたものであるが、多摩川支流大栗川の中央大キャンパスの南辺でも捕獲された。多摩川の清流が戻りつつある証拠として喜ばしい。

 食用部位は、甲羅を開くと現れる「カニ味噌(中腸腺)」や、雌の卵巣で、上海ガニに勝るとも劣らないほど美味である。社会人となり大分県に転勤した50年前は、いわゆる独身貴族であったため、高級小料理店に入り、大野川で獲れた、モクズガニを何回か堪能した。カニ味噌は時間とともに急速に味が落ちていくので、新鮮なモクズガニは、上海ガニのカニ味噌よりも、はるかに美味かった。

 上海ガニは、今では名産の江蘇省陽澄湖のモノではなく、周囲での養殖モノが多いと聞く。そこでだが、日本人は作り込み、栽培し、養殖して良いモノを育て上げ、創りだすことに「特異能」を持った民族だと筆者は確信している。近いうちに、今ではつましい年金生活者である筆者でも、高価なモクズガニを口にすることができるよう、日本での養殖が盛んになってくれないかなぁと、願う今日この頃である。