2月 マンサク( 金縷梅 、万作)マンサク科

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 2月~3月の早春、他の花に先駆けて「真っ先」に咲くことから「まんさく」の名がついたという説がある。落葉灌木で、枝一杯に明るい黄色の花をつけるが、花弁が細くよじれているためか、黄色い太陽光を反射する力は弱く、ボォーッと霞んだ光の塊りのように見える。早春の象徴的な花であるにもかかわらず、枯れた雑木林の中で、まだ春は遠いのですが・・と、極めて遠慮がちに咲いている。

 この時期は、シベリアからの寒気団と南太平洋からの暖気団とが押し合いをしている時期で、たまに暖かい晴天があるが、翌日には冷たい雨やみぞれや、雪になったりする。概して北風が冷たい曇り日が多い。水原秋櫻子は「まんさくや 小雪となりし 朝の雨」と詠んだ。そんな日々の中では、マンサクのぼんやりとした黄色い光の塊りは、春到来の兆しを感じて、心の中が温かくなる。

 現代では存在感が薄くなったマンサクであるが、昔の日本、特に雪国では大切な樹木であった。雪の上を歩くと靴が雪の下に埋もれ歩くのに難渋するが、雪の下に埋もれないよう「輪かんじき」を履くのが必須条件であった。マンサクの枝は強靭で柔軟性があり、腐りにくいので、曲げて輪にする輪かんじきの材料として適材だった。現在はアルミ製となっているようだが、足の裏の動きに合わせてしなるマンサクの材の方が足の疲れは少なく長時間歩行に向いている。

 マンサクの英名はWitchhazelという。則ち魔女のハシバミの意味だ。花を金髪を振り乱した魔女に例え、葉の形がハシバミ(ヘーゼル・ナッツ)の木の葉に似ているとみての命名のように思われる。だが、事実は違うようだ。もとはWitch(魔女)ではなく、Wych(しなやかな枝)であったようだ。発音が似ていること、そして葉や材はタンニンをふくみ、止血・収斂・消炎などに顕著な効能をしめしたことも、魔女のイメージを高めたのではなかろうか。

 マンサクを用いた輪かんじきは、雪がこびりつかず歩きやすいと言われている。これはマンサクの材が含むタンニンの防水性・撥水性によるものだろうか。筆者には分からない。昔の人の細やかな観察眼と知恵に、今さらながら感服する次第である。