年が明け、日が暮れるのが少し遅くなり、陽射しも心なし強くなってきたと感じるころから、フキノトウの芽が膨らみ始める。晴天が続くと、冬の乾燥でパサパサとなって、干からびて死んだような土の上に、元気よくフキノトウが伸びだしてくる。あのみずみずしい明るい黄緑色のフキノトウは、春到来の喜びを感じさせる。
漢方では、「薬食同源」と言って食べ物での病気予防を目指す教えがあり、漢方を学んだ石塚左玄の『食物養生法』では、春は苦味、夏は酸味、秋は辛味、冬は油を摂れと述べている。フキノトウの苦みは、抗酸化作用をもつポリフェノールの味である。その薬効は冬の間に蓄積した老廃物を、体内から取り除くと言われており、まさに春の目覚めの妙薬だ。
筆者はフキノトウの苞(花蕾を包んでいる葉のような部分)を、千切りにして味噌汁に浮かべ、香りと苦味を味わうのが大好きだ。冬の野山では、あの若々しい緑色に出会えなかったので、フキノトウの苞の若緑色がとても美しく感じる。
だが、観察園では珍しさから、赤花フキノトウが人気だ。近年、青森県で見つかったと言われる変異株で、苞も花もあずき色をしている。多くの草木の新芽が赤いのは、紫外線に弱い葉緑体を守るため、葉緑体が十分に増えるまで、葉がもつアントシアニン(赤色)が紫外線を防ぐ役割をしていると言われている。アセビ、クスノキ、ナンテンなどと同様に、赤花フキノトウもアントシアニンをことさら多く持つ変異株なのだろう。成長すると、葉は他のフキの葉と同じ緑色になる。
ためしに、赤花フキノトウの苞の一枚を千切り取り、齧ってみた。非常に苦く、渋く、えぐみの強い味がした。二度と食べる気にはならない。アントシアニンもポリフェノールの類なので、ことさら苦くて当然なのだろう。これでは、春到来の喜びを味わうほろ苦さとは言えず、食べるのはやめておいた方がよさそうだ。