写真に見るバナナの房状のものは、エゴノネコアシアブラムシが、エゴノキの芽に寄生して分泌物を出した結果、植物組織が異常発育して出来たコブ(瘤)状のもので、猫の足の形に似ていることから、ネコノアシフシ(猫の足付子)と呼ばれている。この虫コブ(瘤)のことを虫えい(癭)とかゴール(gall)、フシ(付子)とも呼ぶ。
エゴノキは、その実が強いアクのある味=エグイ味であることからエゴノキの名がついたようであるが、エゴノキで越冬した受精卵が春に孵化し、無翅型(翅がない)のメスが生まれ、エゴノキの芽で吸汁すると、その刺激でエゴノキの芽が変形し、バナナの房状の虫こぶが形成される。こぶの中で単為生殖で無数の雌幼虫が増殖し、やがて有翅型が誕生して、7月になると虫こぶから外界に飛び立ち、イネ科のアシボソに移動する。アシボソでも単為生殖で無翅型の世代が繰り返され、秋になると有翅型が羽化し、エゴノキに戻ると雌と雄の有性虫が生まれ、交尾後産卵する。この受精卵が越冬して翌春に羽化し、新芽で虫こぶを創るという生活史を繰り返す。
さて、エゴノネコアシアブラムシが新芽で吸汁する時に出す分泌物が、なぜ植物組織を異常発育させるのか、エゴノキで繁殖した子孫が、夏にはイネ科のアシボソに移動して繁殖し、秋には再びエゴノキに移動するという複雑な食草の変化をなぜ行うのか、これらの理由が全く不明である。また、エゴノキの虫こぶの中で繁殖した多数の幼虫が出す排泄物を、虫こぶは吸収しているが、エゴノキにとって、どのような影響があるのかも不明である。則ち、エゴノネコアシアブラムシは、一方的にエゴノキやアシボソを利用している(片利共生)のか、利用されているエゴノキやアシボソにとっても利益がある(相利共生)のか、その関係性も分かっていない。生物学の分野は分類に関して進んでいるが、分かっていない事が多すぎる。
昔の人は、ウルシ科のヌルデにつくヌルデシロアブラムシが作った虫瘤(五倍子、フシと呼んだ)から採れるタンニンを使って、下痢止め、止血剤などの薬剤、衣服やお歯黒の染料に利用していた。将来、ネコノアシフシ(虫瘤)から、妙薬が発見されるかもしれないと考えると、今更のように生物多様性の重要性を認識させられる。