春の節分の時期になると、花を咲かせてくれることからの名前。1株だけだと、咲いていることに気づかないほど、白くて小さな花である。春はまだ遠い時期なのに、節分となると冷たい地面から小さい花茎をもたげ、律儀に花を開き、2月中旬には満開となる。
2月中旬は二十四節気で「雨水」と言い、雨が降るようになる。土が湿り気を含むので、七十二候では「土脉潤起」の時期と呼ぶ。土の中の脉(ショウ、脈のこと)が潤い、土が生き返ってきたという意味だ。一方、『金色夜叉』の作者の幸田露伴は、娘の幸田文を庭に連れ出し、暖かさで土中の水分が地表に上がってきて、冬の乾燥で白く乾いた土の所々が、黒ずんできた状態を指し、パサパサになった洗い髪が、頭皮から滲み出る脂で、徐々に髪がしっとりしてくる状態に似ていると見て、「土膏が動く(どこう、土のあぶら)が動く」と言うと教えた。
セツブンソウは、「土脉潤起」、あるいは「土膏動く」を感じていち早く花をもたげるのであろうか。サクラのように人々に持て囃されることを嫌うかのように、落葉樹林の林下の半日陰の場所で、10㎝ほどの草丈に、一輪だけひっそりと可憐な白い花を咲かせている。それだからか、人間嫌い、気品、微笑みの花言葉があり、山草愛好家からは愛されている。環境省では絶滅危惧種に指定した。