5月 ノアザミ(野薊) キク科

ノアザミ(野薊)キク科

 北海道を除く本州~九州に分布する宿根草で、山裾、草原、河川敷、路傍など日当たりがよく水はけのよい場所に自生する。各種アザミの中で、最も広範囲に分布し、夏や秋ではなく、春(5月~8月)に咲く唯一のアザミだ。このため、アザミと言えばノアザミであることが多い。花は上向きに咲き、花の付けね部分にある総苞(蕾を包むように葉が変化した部分)が丸くて、粘液を出してネバるのが特徴。

 野生のノアザミの花色は、一般的には淡紅紫色であるが、濃紅色、淡紫色、白色などの株が選別され栽培されるようになり、花あざみとよばれていた。やがて、これら栽培品種は、寺岡アザミ、ドイツアザミなどの商品名がつけられ販売されるようにもなったが、すべてノアザミの園芸品種である。しかし、花壇に植えられることは少なく、野山に出かけた時に、咲いているのを見かけてアザミだと認識するのが通常である。

 アザミにはトゲがあり、花も派手ではないためか、自立、独り立ち、触れないでといった花言葉が並ぶ。花壇には植えられず、野の雑草の中に放っておかれるアザミであるが、なぜかヒトの心を引き付ける魔力をもっているようだ。空襲で家を失い、知人を頼って下諏訪に移り住んだ詩人の横井弘は、八島湿原に咲くアザミを見て「山には山の憂いあり、海には海の悲しみや まして心の花園に 咲きしあざみの花ならば」で知られる「あざみの歌」を作詞した。井上陽水は「少年時代」で「夏が過ぎ 風あざみ 誰のあこがれに さまよう」と歌った。両人とも、野辺に咲くアザミに、心の底にしまっていた深い思いを寄せている。

 詩人ではない筆者のアザミに対するイメージは、孤高、脱俗、といったところであるが・・・。実態は少し違うようだ。日本には約120種のアザミが繁茂しており、場所も湿地帯に咲くキセルアザミ、火山のガレ場に咲くフジアザミなど土壌に対応したアザミが自生し、北は大雪山のミヤマサワアザミ、南は南西諸島の浜辺に咲くシマアザミなど、気温の寒暖にも対応したアザミが自生している。孤高というよりも、不撓不屈といったイメージが合うようだ。