ツリフネソウ(吊舟草、Impatiens textorii)は、日本、朝鮮半島~中国、ロシア島南部に自生する1年草で、東南アジア原産のホウセンカ(鳳仙花、Impatiens balsamina)にそっくりである。ホウセンカの花では蜜を溜めた距は下方にCの字に曲がって突き出しているが、ツリフネソウの距は渦を巻いているので区別できる。ホウセンカは暑さに強く、丈夫で育てやすいので、昔は夏花壇の花としてよく植えられた。ただ、草の頂部に葉が多く、花が葉の下に隠れて咲くので、主役にはなれなかった。それにしては、鳳仙花は大げさな名前である。ツリフネソウは竹を切って作った花器の「吊舟」から付けられた名前と言われている。奥ゆかしい名前だ。ツリフネソウは葉の脇から長い花径を伸ばし、群がって咲くので、花期は見事である。ただ水分を欲るので、現在では山地の麓の木陰や水辺でしか見られない。 今から30年前、市内の成蹊大学周辺の凹地にあったお屋敷の、庭木が鬱蒼と茂る樹下に、取り残された雑草に交じってツリフネソウがひっそりと咲いていた。だが、20年前には消えてしまった。温暖化が進んだ今日、ツリフネソウは市街地では見ることのできない花となっている。