今年はヒキガエルが2月20日に現れた。この日の気温は18.1℃で、2月としては異常な高気温であり、冬眠から目覚めたのだろう。大きな体のメスの背中の上に小さなオスがしがみつき、のそりのそりと歩いている。だが産卵まではいかず、再び冬眠に戻ったようだ。
ヒキガエルは正確にはニホンヒキガエルと言う種名で、西日本に分布するのをニホンヒキガエルという亜種名とし、東日本に分布するのをアズマヒキガエルという亜種名としている。この写真では分かりづらいが、写真のヒキガエルはアズマヒキガエルで、西日本のものよりも剥きだしになった鼓膜(目の後方にある丸くて平らな部分)が大きい(目から鼓膜までの距離が鼓膜の直径より短い)ことで区別している。
拙宅の手作りの小池(直径50㎝程度)では、去年は3月11日(17.8℃)に13匹のヒキガエルが現れ、4月25日(24.3℃)に9匹が現れ、カエル合戦が始まった。2期に分れ集団お見合いが始まったのである。申し合わせたように同じ日に多数のカエルが集まることができるのはなぜなのか、なぜ2期に分れたのか不思議でならない。
本来は鈴鹿山脈以西に棲息するニホンヒキガエルが、東京には人為的に持ち込まれ繁殖しているようだ。産卵行動が2期に分れたのは、その2種の違いによるものなのか、観察を続ける必要がありそうだ。
因みに、俳句の世界でヒキガエルは、夏の季語となっている。夏に活動が活発になるからというのがその理由のようだ(俳書『山之井』北村季吟撰、慶安元年1648年刊)。だが、ヒキガエルは産卵の時以外は林や草叢の陰で待ち伏せ型の採食を行い、ミミズ、ダンゴムシ、ゴミムシなどを舌で捕らえて食べている。春の産卵期を逃すと身近では滅多にみられない生活をしているので、夏の季語としていることに無理を感じる。「古池や 蛙飛び込む 水の音」の芭蕉の俳句に出てくるカエルは、そのためツチガエルであるという解釈がされている。この俳書でヒキガエルが春の季語とされていたら、何の抵抗もなくこの句はヒキガエルであると素直に受け止められるのだが・・・・・。
観察園だより 3月4日号掲載
ツクシやワラビ、たくさんのスミレが咲いています。
観察園だより 2月18日号掲載
食べられる野草としてフクジュソウやアシタバなどを紹介しています。
2月 フクジュソウが満開
2月 フキノトウ(蕗の薹)
年が明け、日が暮れるのが少し遅くなり、陽射しも心なし強くなってきたと感じるころから、フキノトウの芽が膨らみ始める。晴天が続くと、冬の乾燥でパサパサとなって、干からびて死んだような土の上に、元気よくフキノトウが伸びだしてくる。あのみずみずしい明るい黄緑色のフキノトウは、春到来の喜びを感じさせる。
漢方では、「薬食同源」と言って食べ物での病気予防を目指す教えがあり、漢方を学んだ石塚左玄の『食物養生法』では、春は苦味、夏は酸味、秋は辛味、冬は油を摂れと述べている。フキノトウの苦みは、抗酸化作用をもつポリフェノールの味である。その薬効は冬の間に蓄積した老廃物を、体内から取り除くと言われており、まさに春の目覚めの妙薬だ。
筆者はフキノトウの苞(花蕾を包んでいる葉のような部分)を、千切りにして味噌汁に浮かべ、香りと苦味を味わうのが大好きだ。冬の野山では、あの若々しい緑色に出会えなかったので、フキノトウの苞の若緑色がとても美しく感じる。
だが、観察園では珍しさから、赤花フキノトウが人気だ。近年、青森県で見つかったと言われる変異株で、苞も花もあずき色をしている。多くの草木の新芽が赤いのは、紫外線に弱い葉緑体を守るため、葉緑体が十分に増えるまで、葉がもつアントシアニン(赤色)が紫外線を防ぐ役割をしていると言われている。アセビ、クスノキ、ナンテンなどと同様に、赤花フキノトウもアントシアニンをことさら多く持つ変異株なのだろう。成長すると、葉は他のフキの葉と同じ緑色になる。
ためしに、赤花フキノトウの苞の一枚を千切り取り、齧ってみた。非常に苦く、渋く、えぐみの強い味がした。二度と食べる気にはならない。アントシアニンもポリフェノールの類なので、ことさら苦くて当然なのだろう。これでは、春到来の喜びを味わうほろ苦さとは言えず、食べるのはやめておいた方がよさそうだ。
2月 セツブンソウ(節分草) キンポウゲ科
春の節分の時期になると、花を咲かせてくれることからの名前。1株だけだと、咲いていることに気づかないほど、白くて小さな花である。春はまだ遠い時期なのに、節分となると冷たい地面から小さい花茎をもたげ、律儀に花を開き、2月中旬には満開となる。
2月中旬は二十四節気で「雨水」と言い、雨が降るようになる。土が湿り気を含むので、七十二候では「土脉潤起」の時期と呼ぶ。土の中の脉(ショウ、脈のこと)が潤い、土が生き返ってきたという意味だ。一方、『金色夜叉』の作者の幸田露伴は、娘の幸田文を庭に連れ出し、暖かさで土中の水分が地表に上がってきて、冬の乾燥で白く乾いた土の所々が、黒ずんできた状態を指し、パサパサになった洗い髪が、頭皮から滲み出る脂で、徐々に髪がしっとりしてくる状態に似ていると見て、「土膏が動く(どこう、土のあぶら)が動く」と言うと教えた。
セツブンソウは、「土脉潤起」、あるいは「土膏動く」を感じていち早く花をもたげるのであろうか。サクラのように人々に持て囃されることを嫌うかのように、落葉樹林の林下の半日陰の場所で、10㎝ほどの草丈に、一輪だけひっそりと可憐な白い花を咲かせている。それだからか、人間嫌い、気品、微笑みの花言葉があり、山草愛好家からは愛されている。環境省では絶滅危惧種に指定した。
2月 エゾオニシバリ(標準和名ナニワズ 難波津) ジンチョウゲ科
中国原産のジンチョウゲの仲間で、わが国では福井県以東の日本海側と福島県以北の本州、および北海道に冷涼地に自生し、オニシバリの亜種とされている。原種のオニシバリは宮城県以南、山形県以西の日本海側の暖地に産して、住み分けている。
両種ともに、樹高1mほどの落葉低木で、葉や花の形はジンチョウゲに似ており、早春に黄色い花をつける。オニシバリの花は地味な黄緑色で目立たないが、エゾオニシバリの花は鮮黄色であり、春まだき山中でひときわ目立つ美しい存在である。
枝を折り取ることができないほど樹皮が丈夫なことから、それぞれオニシバリ、エゾオニシバリの別名がある。また、夏に落葉することから、オニシバリはナツボウズ、エゾオニシバリはエゾナツボウズの別名もある。さらに、花色に注目して、キバナジンチョウゲ、エゾキバナジンチョウゲの別名もある。しかし、標準和名はオニシバリとナニワズとなっている。なぜエゾオニシバリがナニワズという標準和名なのかが全く解せない。
牧野富太郎は、ナニワズはオニシバリの長野県における方言で、長野県人が北海道において、長野県に生育するオニシバリに似た本種をナニワズと呼んだのが始まりとしている。ではなぜ、長野県人がオニシバリをナニワズと呼ぶのか、これが分らない。
古今和歌集に「難波津(ナニワヅ)に咲くや此花冬ごもり、今を春べと咲くや此花」という歌がある。「此花」は梅の花のことで、「大阪の港町に梅の花が咲いた。今、冬ごもりからさめて春が来た」という意味だが、この歌の中にあるナニワヅ(地方名)が、梅に先駆けて咲くこの植物の名前になったという説がある。・・・が、こじつけのように感じる。そこで観察園では、一方のオニシバリは標準和名で存在するので、その北方系の亜種としてナニワズと書かず、樹名板にはエゾオニシバリと書いた。ナニワズと書かずに御免ねと問いかけたら、美しい花はナニもいワズ、微笑んだ。
2月 メジロ
2月 モズ
観察園だより 2月6日号掲載
スプリング・エフェメラルとしてセツブンソウやキクザキイチゲなどを紹介しています。