9月 イヌビワ(犬枇杷、イタビ) クワ科

ビワの実の形に似るが、ビワに比べて不味いことからイヌビワの名がある。しかし、ビワの仲間でなく、イチジクの仲間だ。雌雄異株で花嚢(イチジク状花)は4~5月に開花し、雄株の花嚢の中で花粉を全身につけて花嚢を飛び出たイヌビワコバチ(体長2㎜)のメスが、雌株の花嚢に潜入口から潜り込む。メスが潜り込むと潜入口は閉ざされ、メスは動き回り受粉が自動的になされる。花嚢は8月~9月に黒熟し、黒熟した花嚢(イチジク状果)は甘くておいしい。メスは寿命が尽きて死亡し、果嚢の中で消失する。一方、雄株では冬を除きほぼ通年、次々と新しく花嚢が出来る(ただし8~9月時点では花嚢が未熟)。雄株の花嚢はイヌビワコバチの産卵・成長・交尾の場で、大切な生活の場となっている。イヌビワコバチのオスは、生まれてより死ぬまで雄株の花嚢の中で一生を遂げる。メスのみが花嚢の外へ飛び出し、雌株の花嚢に潜り込むと受粉され種子も出来て花嚢は果嚢となり、黒熟して野鳥の到来を待つ。飛び出たメスが雄株の花嚢に飛び込むと、花嚢の中に産卵し、幼虫は花嚢を餌にしてイヌビワコバチに成長する。ゆえに、雄株では種子はできず、雌株のみで種子ができる。イヌビワコバチは雌株では繁殖できず、雄株のみで繁殖できる。イヌビワとイヌビワコバチは、こうした共生関係にある。世界にイヌビワ属の植物は700種ほどあり、そのどれもが、それぞれ独自のイヌビワコバチとの共生関係にあるようだ。なぜ、このような複雑な関係になっているのか・・・両者とも確実に子孫を後世に残すための秘策なのか。いや、イヌビワの作戦どおりなのだろう。