山歩きをしていて、生命エネルギーを体一杯に感じるのは、クリの花が咲くころだ。春の新芽は成長し、若葉が広がって山全体が美しい緑に覆われる。クリの花には多くのチョウやアブが訪れ、山が生き生きとしている。クリは雌雄同株で、細長い穂状の雄花序の下の方、雄花と少し離れた基部に雌花序が1~3個ついている。クリの受粉は、農学では風媒とされている。雄花は開花時に独特の強い香りを放出して昆虫を誘うが、花蜜を分泌するのは雄花だけで、雌花には分泌器官がない。訪花昆虫は雄花に滞在し、極くまれに雌花で散見されるだけの状況であり、自家受粉しないので、風媒によって自然受粉しているとの考えだ。 一方、植物学では虫媒と考えられている。クリの花粉の飛散距離は極めて短く、計測した結果では、樹冠から約20mの範囲で大半が落下することが判明している。いずれにせよ、縄文時代の三内丸山遺跡周辺には、クリを栽培している純林があり、現代でもクリ栽培では結実数を増やすためか、多数のクリの木がまとまって植えられており、そのためクリ畑を呼ばれている。むさしの自然観察園では、品種が異なるクリの木を各1本、10m離した場所植えており、よく結実している。だが、クリの木の枝下に植えたダンコウバイ、オオバアサガラなどの他の樹木の成長がいずれも著しく悪い。クリの葉の裏側には腺点が多数ある。ここから他の植物の成長をおさえるアレロパシー(他感作用)物質を発散しているのではないかと、この頃考えるようになった。そういえば、クリ畑の下は、イネ科の短い雑草ぐらいしか生えていない。林床がきれいだ。アレロパシー物質のせいではないかと思う。