7月 セイヨウニンジンボク(西洋人参木)シソ科

 セイヨウニンジンボクという名前を聞いても、ニンジン(人参、Carrot )はセリ科の草本であり、そもそもニンジンは日本原産の植物ではない。それなのに、西洋の名をつけた人参で樹木とは、どのような樹木なのか、まったく想像できない。

 まず、ニンジンボクという植物は、海岸に生えるハマゴウに近い植物で、スミレ色の花を穂状につける落葉低木である。葉がウコギ科のコウライニンジン(高麗人参、お種人参)に似た掌状複葉で、感冒の薬など薬用によく使われたので、ニンジンボクの名がついたのだろう。ニンジンボクは中国原産で、日本には江戸時代中期の享保年間に薬用として渡来し、幕府の御薬園に植えられたが、花はハマゴウに似て地味であるためか、一般にはあまり普及しなかった。

 その後、明治時代に同じ仲間で地中海沿岸が原産の、より花が華やかなセイヨウニンジンボクが渡来し、洋風庭園に植えられるようになった。けれども、一般家庭には普及せず、未だに馴染みのない植物のままだ。なぜだろう。

 セイヨウニンジンボクは生育旺盛で、毎年長い枝を四方に伸ばし樹高は3mほどになる。涼し気な青い花が枝一杯に咲く姿は、狭い一般家庭の庭では樹勢を持て余し、広い洋風庭園でこそ、その美しい花と自然樹形のよさが発揮されるからではないか。

 日本では夏に咲く花は少ないが、この花は暑い夏の7月~9月にかけて咲き続けるので、チョウやハチなど多くの昆虫が吸蜜に訪れる。観察園を生きものにあふれ、精気に満ちた場所として保持するには、セイヨウニンジンボクは大変貴重な植物となっている。