6月 ハンゲショウ(半夏生)ドクダミ科

 日本の本州以南、朝鮮半島、中国、フィリピンなど、東アジアに分布し、日当たりの良い湿地に自生している。ドクダミ科の落葉性多年草で、太く長い地下茎で分布を拡げて群生する。
 草丈は1mほどに成長し、葉は卵形で互生する。夏に葉の付け根に白い穂状の花をつけるが、花の下の葉2~3枚の表面は白く変化し、虫を呼び寄せる花弁の役目をなしている。ドクダミの白い花も花弁ではなく、苞と呼ばれる葉を白い花弁状に変化させたものだ。となると、ハンゲショウは、虫を呼び寄せるために葉を白くしただけなので、進化の手抜きと思われる。しかし、花期が終わるとハンゲショウの白い葉は、緑の葉に戻る。葉を無駄にはせず、合理的とも言える。

 ところで、ハンゲショウの名の由来が曖昧だ。花の下にある2~3枚の葉の表面だけが白くなることから、半化粧の名がついたという説と、72候の「半夏生ず」の時期(夏至から11日目)に咲くので半夏生との説がある。

 だが、平安時代初期の918年に深江輔仁が著わした『本草和名』では、ハンゲショウの漢名である「三白草」の和名は、「加多之呂久佐(カタシログサ)」と記しているので、古名はカタシログサであり、故に半化粧の漢字が妥当と思われる。江戸末期の1806年に小野嵐山が著わした『本草綱目啓蒙』では、三白草はカタシログサ、オシロイカケ、ハゲソウ、ハンゲグサの名を挙げている。ハゲソウは禿げ草だろうか、ハンゲクサは半夏草であろうか?この時代では、72候の「半夏生ず」との混乱が起きているように思える。

 「半夏」とはサトイモ科のカラスビシャクの漢名で、この花が咲くまでに田植えを終えないと、秋の収穫が望めないので、「半夏生ず」の時期が農作業の重要な暦日として「半夏生」となった。このため、ドクダミ科のハンゲショウも半夏の頃(現代では7月2日頃)に咲くものと誤解されている。しかし、観察園ではハンゲショウは4月に湿地から出芽し、6月上旬には花が咲き葉が白くなる。この事実から考えると、半化粧が同音の半夏生にすり替わって理解されているのではないかと、筆者は考える。