6月 フシグロセンノウ(節黒仙翁)ナデシコ科

 中学校の林間学校で蓼科に行くとき、中央線の相模湖駅(当時は与瀬駅から名前を変更したばかり)を過ぎて標高を増し、山中に入ったころの、車窓から見える切り通しの崖に、なぜかポツンと1輪だけ、朱色の造花が草叢に無造作に刺してある・・・と見たのが、この花との最初の出会いであった。後年、フシグロセンノウという山草であることを知った。花の色は印鑑の朱肉や鳥居の朱色に似ており、日本の山野の景色の中では全くそぐわない色であり、好きにはなれなかった。

 この花は、葉が茎に着いた節のところが黒くなることからフシグロの名がつき、センノウは京都嵯峨野の仙翁寺で栽培され、仙翁花と呼ばれていた花(室町時代に寺の修行僧が中国から持ち帰ったナデシコ科の花で、三倍体のため種子は出来ず、株分けや挿穂で繁殖している希少な植物で、世間一般には広まっていない)に似ているところから、仙翁の名を借りてフシグロセンノウ(節黒仙翁)と命名されたようだ。

 同じ仲間には、北海道と軽井沢に分布するエゾセンノウ、阿蘇で見つかったマツモトセンノウ、北海道と埼玉・長野の山地に自生するエンビセンノウ等があるが、いずれも希少種である。その中でフシグロセンノウは、本州~九州の山地に広く分布している。だが、群生することはなく、どこでも周囲の景色に融け込まず、ひとりポツ然と咲いている。そんな花を『花の百名山』を著わした田中澄江は、雲取山をフシグロセンノウが咲く山として挙げた。同様に、日本植物友の会は『野の花 山の花 ウォッチング』で、雲取山に通じる後山林道の落葉樹林で見られる花としてこの花を記載した。現代ではフシグロセンノウは気になる花としての地位を得たように思われる。

 繰言になるが、筆者はこの柿色というべきか人参色のフシグロセンノウの花は好きではない。しかし来園者は、綺麗な花ね、素敵といった感嘆の声を上げる。ゼラニウムの花の色を見慣れた都会のヒトは、フシグロセンノウの花色に、山野草として格別の違和感を覚えないようだ。