6月 キツリフネ(黄釣船)ツリフネソウ科

 ツリフネソウ科ツリフネソウ属の植物は、北半球と熱帯地域に広く分布しており、全体の種数は800~1,000種あるとされ、未だに新発見が続いていると言われる。日本では、ツリフネソウ、キツリフネなどが、北海道~九州の低山から山地にかけて分布し、いずれも水分の多い湿地や排水溝など、湿った薄暗い場所に自生している。

 キツリフネは、ツリフネソウの自生環境と類似するため、日本においては両者がともに見られる場合が多い。しかし、ツリフネソウが花茎を葉の上に出して花を咲かせて群生しているのに対し、キツリフネは葉の下で花を咲かせており、草姿も細いことから、ツリフネソウの脇役としてツリフネソウの群生から少し離れた場所で、細々と自生している様子をみることが多い。

 ツリフネソウは、日本でこそキツリフネに対して優勢であるが、キツリフネは北海道~九州の日本だけでなく、朝鮮、中国、シベリア、ヨーロッパ、北アメリカなど、北半球の温帯に広く分布する成功者だ。その差は学名にも表れているように思える。
 ツリフネソウ Impatiens textori の属名のImpatiens はラテン語で「忍耐力のない」の意味で、実に触ると種子が弾けることからの命名であり、種小名のtextoriはシーボルトが植物採集のために日本に派遣した植物学者のCarl Julius Textorの名をつけたものである。一方、キツリフネ Impatiens noli-tangere の種小名noli-tangereは、「触るな!」の意味だ。これはイエスの遺体に油を塗ろうと墓を訪れた信者であるマグダラのマリアの前に、イエスが復活して姿を見せたので、マリアが思わず縋ろうと近づいた時に、イエスが「我に触れるな noli me tangere 我はまだ父のもとにのぼっていないのだから」と、マグダラのマリアを諭した言葉から採っている。この言葉はヨハネ福音書に書かれている有名な台詞であり、彼女は正教会・カトリック教会などでは聖女となっている。

 今春に種子を蒔いて愛培した結果、1m近くに成長し、6月半ばから花を沢山つけ始めた。か細く健気に葉の下で咲くイメージの花が消えて、雑草然とした姿になり、愛培した筆者としては失敗・落胆の感が強い。