岩手県・秋田県以南の本州~南西諸島に生息、北海道には分布しない南方系のチョウである。翅(はね)は黒色だが、前翅(前ばね)から後翅(後ばね)にかけての翅の中心部に、縦に太い青緑色の帯が走っている。この帯には鱗粉(りんぷん)がなく、透明で、太陽光が明るく透けて見える。黒い闇の中に信号機の青色光が縦に並んでいるようで魔力とか神秘的な雰囲気を漂わせ、南国的で洒落た美しいチョウである。
筆者が中学生でチョウの採集をしていた65年前は、神社など限られた場所に行かなければみられないチョウで、かつ、素早く飛び回るので採集が困難なチョウであった。戦後の復興により街路樹が植えられるようになり、市街地の大気汚染、道路からの照り返しによる夏の暑さ、病害虫に抵抗力がある樹木として、広島の原爆でも生き残ったイチョウやクスノキが街路樹や公園樹として、多く植えられるようになった。クスノキはアオスジアゲハの幼虫の食樹(エサ)となるので、東京の市街地でも見られるようになったチョウなのだ。
筆者が社会人となり、デパートで、黒色に近い濃紺の地にアオスジアゲハの青緑色の紋が入ったネクタイを見つけた。無性に入手したくなったが、当時の給料の中からでは買えない大変高価なものであった。後日、売れ残っていたので夏のボーナスで思い切って購入し、毎日のように着用した。そのネクタイを見た社内のある女性が、素敵なネクタイねと褒めてくれたが、それが縁で妻となった。
結婚後、妻は毎日同じネクタイはオカシイ、何回も着用すると汚れる、貴方には似合わないと・・・と段々批判の言葉が強くなった。かまわず毎日のように着用していたため、擦り切れてきたので破棄した。あのネクタイが現在でも売っていたら購入したい気持ちはあるが、退職した老後の生活では、背広にネクタイの装いをする場もない。アオスジアゲハは筆者の青春の想い出をのせて、今日も街中を羽ばたいている。