写真を一瞥して「あッ、ミコシグサね」と思う人が多いと思う。花が咲き終わったあとに出来る細長い莢が裂開して、外側に巻き上がった形が、祭りのお神輿の屋根の形に似ていることから全国的にミコシグサの愛称がある。ゲンノショウコ(Geranium thunbergii)が標準和名であり、古来より下痢止めや胃腸病の薬草として有名で、煎じて飲めば効果がすぐ現れるので、「現(or 験)の証拠」の名がついた。
しかし写真の植物は、ゲンノショウコではなく、よく似たアメリカフウロ(Geranium carolianum)である。(ゲンノショウコに比べ、葉の切れ込みが深い。)アメリカフウロは北米のカロライナ州で多く見られた植物であるが、物流が盛んになるにつれて全米に広がり、日本や中国にも分布するようになった。英名を Crane’sbill (ツルの嘴)と言い、中国では老鸛草 (ろうかんそう、鸛=コウノトリ)と、ツルを意識した名前になっている。これは、学名のGeranium がギリシャ語のgeranos (ツル)を語源としており、植物分類学が未発達の時代において、学名の影響を受けて命名した名前だからではなかろうか。
では、なぜ日本では、学名を意識せず、ゲンノショウコという極めて実利的な名前がついたのだろうか?ゲンノショウコの薬効は古くから日本では知られており、漢方でなく日本で開発された薬草だからだ。日本人もなかなかやるじゃないかと言いたいところであるが、食料不足による偶然の発見である可能性もある。どうなんだろう。