12月 スズカケノキ(鈴掛の木)の実 スズカケノキ科

 スズカケノキとは、なんとロマンチックな名前だろう。少年の頃、灰田勝彦が「懐かしのメロディー」というラジオ番組で歌っていた「鈴懸の径」の歌詞を聞いて、どんな木なのか興味をもった。♪友と語らん鈴懸の径・・・やさしの小鈴 葉陰に鳴れば 夢はかえるよ 鈴懸の径・・・♪。そして高校生となった頃には、高度成長時代が来て、街には白いコンクリートのビルが立ち並び、並木道に見慣れぬ大きな葉の樹木が目立つようになった。無節操に大きなガサガサとした葉を茂らせるこの樹木は、プラタナスと知った。四角い冷たく無表情のビルが並ぶ風景の中では、ガサツな感じのプラタナスが奇妙に調和し、街の「近代化」を感じた。最盛期には都内だけで5万本のプラタナスが並木道に植えられたようだ。

 このプラタナスが総称スズカケノキの正体だった。日本にはスズカケノキ(南東ヨーロッパ~西アジア原産)とアメリカスズカケノキ(北米原産)、両者の雑種であるモミジバスズカケノキの3種がある。実のなる数は種によって異なり、アメリカスズカケノキは1個ずつ、モミジバスズカケノキは2~4個、スズカケノキは3~7個が連なってつく。果実がぶら下がる様子から、山伏が着る法衣(すずかけ・篠懸、篠は山上に生える笹のこと。笹による傷を防止するために篠懸を着た)につける球形の房(梵天という)に似ていることから「篠懸の木」としたが、その後いつの間にか「鈴懸の木」に変わり、現在に至っていると言われている。

 さて、日本においてプラタナスは数を減らしている。一つは、成長が早く、電線や隣接のビルに徒長枝が長大に伸びる、落葉の時期には大きな葉が多量に道路に散るなど、管理に手間暇がかかることがあるが、クワ、ミカンなどを食害していたゴマダラカミキリが、プラタナスという洋食に慣れて、都会でも大発生するようになり、枯らすようになったからだ。

  観察園のプラタナス(モミジバスズカケノキ)も、夏にはグンバイハムシが葉を汚い茶色に枯らし、大きな枯葉は風で糸の切れた凧のように飛び散り掃除時集めるのに難渋する厄介な樹木だ。樹皮も迷彩服のような斑模様に剥げ落ち、園内の他の木立の景色に溶け込まず、異様な姿を呈している。灰田勝彦の歌うスズカケノキの美しいイメージは消えて、迷惑かけの木、手間かけの木だ。