12月 イソギク(磯菊)キク科

 花の少ない11~12月に、小さな黄色い花を房状に咲かせる姿が可愛いイソギクは、野菊の中でも人気が高く、産地が限定されている種であるにもかかわらず、一般家庭でも多く植栽されている。イソギク(Chrysanthemum pacificum)の自生地は、千葉県犬吠埼~静岡県御前崎および伊豆諸島の海岸であり、「フォッサマグナ要素」の植物とされている。

「フォッサマグナ要素」の植物は、伊豆諸島、伊豆半島、房総半島南部、箱根、富士山、御坂山地、八ヶ岳など極めて限定された範囲に自生する植物で、イソギクのほかオオシマザクラ、マメザクラ(フジザクラ)、ガクアジサイ、オオバヤシャブシ、ハコネウツギ、サンショウバラ、ニオイエビネ、カントウカンアオイ、タマノカンアオイ、フジアザミ、ワダンなど190種程度が知られている。現代ではオオシマザクラ、ガクアジサイ、ハコネウツギなど、日本各地で栽培されている種類も多い。

 イソギクの特徴は掲載写真で見られるように、イエギク(一般に栽培されている菊で、中国渡来の植物)と異なり、花弁のような舌状花がなく、黄色の筒状花のみである。また、葉の縁が白く縁取られているように見えるが、それは葉裏に密生する白毛がわずかに見えるためである。

 キク科植物は雑交しやすいので、イソギクもイエギクとの間に自然交配による雑種が出来ている。舌状花があり、花色も白や赤色のものがある。これらの雑種はハナイソギクと呼ばれており、筆者はイソギクの特徴である葉の白い縁取りを見分の際の拠り所としている。シロヨメナの項で記述したように、筆者は野菊の同定は、どうも苦手だ。

11月 アメリカフウロ(亜米利加風露) フウロソウ科

 写真を一瞥して「あッ、ミコシグサね」と思う人が多いと思う。花が咲き終わったあとに出来る細長い莢が裂開して、外側に巻き上がった形が、祭りのお神輿の屋根の形に似ていることから全国的にミコシグサの愛称がある。ゲンノショウコ(Geranium thunbergii)が標準和名であり、古来より下痢止めや胃腸病の薬草として有名で、煎じて飲めば効果がすぐ現れるので、「現(or 験)の証拠」の名がついた。

 しかし写真の植物は、ゲンノショウコではなく、よく似たアメリカフウロ(Geranium carolianum)である。(ゲンノショウコに比べ、葉の切れ込みが深い。)アメリカフウロは北米のカロライナ州で多く見られた植物であるが、物流が盛んになるにつれて全米に広がり、日本や中国にも分布するようになった。英名を Crane’sbill (ツルの嘴)と言い、中国では老鸛草 (ろうかんそう、鸛=コウノトリ)と、ツルを意識した名前になっている。これは、学名のGeranium がギリシャ語のgeranos (ツル)を語源としており、植物分類学が未発達の時代において、学名の影響を受けて命名した名前だからではなかろうか。

 では、なぜ日本では、学名を意識せず、ゲンノショウコという極めて実利的な名前がついたのだろうか?ゲンノショウコの薬効は古くから日本では知られており、漢方でなく日本で開発された薬草だからだ。日本人もなかなかやるじゃないかと言いたいところであるが、食料不足による偶然の発見である可能性もある。どうなんだろう。