4月 セッコク(石斛、セキコク) ラン科

 なんだか難しい名前だが、これは洋ランでお馴染みの「デンドロビウム属」の中国語である「石斛属」から採った名前である。石斛とは、太い茎(バルブ)を、石のように硬い水瓶(斛)に見たててつけた名前だ。そしてデンドロビウムとは、ギリシャ語のデンドロ(樹木)とビウス(生活する)から出来た名前だ。

 セッコクは、本州中部以南から四国、九州及び韓国、中国に自生しており、樹上や岩上などに着生して生長する。樹木に「寄生」して生きているのではなく、本体を固定させるために単に樹皮や岩に根でしがみつき、水分や栄養は、霧や雨水から吸収している「着生蘭」の仲間だ。着生蘭と言えば、カトレア、バンダ、胡蝶蘭など、熱帯雨林や温暖な地域の高い山など、雨や霧が出やすい場所に生えている美しい蘭を思いつく。日本に自生する着生蘭のセッコクも、小さいながら白あるいは淡紅色の美しい花を咲かせる。

 東京オリンピックの頃から刊行された週刊誌の『アサヒグラフ』に掲載された、作曲家の團伊久磨の「パイプの煙」と題した随筆で、葉山の彼の自宅から続く林の高い枝先に、セッコクが自生しているのを見つけたことを自慢げに記している。羨ましく思い、逗子や葉山に遊びに出掛けた際には、少しの時間を見つけては林の中を歩き回り、セッコクを探したが、見つからなかった。だが、30年ほど前、妻の実家がある大分に行った時、臼杵市の山の中を歩いて見た。暖かい海からの水蒸気が上がってきて、小高い山の上の冷気と入り交じり霧が出やすい林で、アチコチの樹木の枝にセッコクが生えているのを見つけ、小躍りした。

 ここで採取した1株(茎が10本ほど)を武蔵野の自宅の樹木に縛り付け増殖に努めた。乾燥する市街地では増殖が上手くいかず、色々と工夫をしているうちに、なんとか増殖するコツを得た。増えた株の10本ほどを観察園に移植し、今では100本ほどの大株となり、見事な花を見せている。植物好きの人は、高尾山のある場所の高木の枝に生えているセッコクを見にわざわざ出かけるが、ここでは目の高さでピンク色の大株を観賞することができる。團伊久磨にみせかったなぁ。