2月 セツブンソウ(節分草) キンポウゲ科

 春の節分の時期になると、花を咲かせてくれることからの名前。1株だけだと、咲いていることに気づかないほど、白くて小さな花である。春はまだ遠い時期なのに、節分となると冷たい地面から小さい花茎をもたげ、律儀に花を開き、2月中旬には満開となる。

 2月中旬は二十四節気で「雨水」と言い、雨が降るようになる。土が湿り気を含むので、七十二候では「土脉潤起」の時期と呼ぶ。土の中の脉(ショウ、脈のこと)が潤い、土が生き返ってきたという意味だ。一方、『金色夜叉』の作者の幸田露伴は、娘の幸田文を庭に連れ出し、暖かさで土中の水分が地表に上がってきて、冬の乾燥で白く乾いた土の所々が、黒ずんできた状態を指し、パサパサになった洗い髪が、頭皮から滲み出る脂で、徐々に髪がしっとりしてくる状態に似ていると見て、「土膏が動く(どこう、土のあぶら)が動く」と言うと教えた。

 セツブンソウは、「土脉潤起」、あるいは「土膏動く」を感じていち早く花をもたげるのであろうか。サクラのように人々に持て囃されることを嫌うかのように、落葉樹林の林下の半日陰の場所で、10㎝ほどの草丈に、一輪だけひっそりと可憐な白い花を咲かせている。それだからか、人間嫌い、気品、微笑みの花言葉があり、山草愛好家からは愛されている。環境省では絶滅危惧種に指定した。

2月 エゾオニシバリ(標準和名ナニワズ 難波津) ジンチョウゲ科

 中国原産のジンチョウゲの仲間で、わが国では福井県以東の日本海側と福島県以北の本州、および北海道に冷涼地に自生し、オニシバリの亜種とされている。原種のオニシバリは宮城県以南、山形県以西の日本海側の暖地に産して、住み分けている。

 両種ともに、樹高1mほどの落葉低木で、葉や花の形はジンチョウゲに似ており、早春に黄色い花をつける。オニシバリの花は地味な黄緑色で目立たないが、エゾオニシバリの花は鮮黄色であり、春まだき山中でひときわ目立つ美しい存在である。

 枝を折り取ることができないほど樹皮が丈夫なことから、それぞれオニシバリ、エゾオニシバリの別名がある。また、夏に落葉することから、オニシバリはナツボウズ、エゾオニシバリはエゾナツボウズの別名もある。さらに、花色に注目して、キバナジンチョウゲ、エゾキバナジンチョウゲの別名もある。しかし、標準和名はオニシバリとナニワズとなっている。なぜエゾオニシバリがナニワズという標準和名なのかが全く解せない。

 牧野富太郎は、ナニワズはオニシバリの長野県における方言で、長野県人が北海道において、長野県に生育するオニシバリに似た本種をナニワズと呼んだのが始まりとしている。ではなぜ、長野県人がオニシバリをナニワズと呼ぶのか、これが分らない。

 古今和歌集に「難波津(ナニワヅ)に咲くや此花冬ごもり、今を春べと咲くや此花」という歌がある。「此花」は梅の花のことで、「大阪の港町に梅の花が咲いた。今、冬ごもりからさめて春が来た」という意味だが、この歌の中にあるナニワヅ(地方名)が、梅に先駆けて咲くこの植物の名前になったという説がある。・・・が、こじつけのように感じる。そこで観察園では、一方のオニシバリは標準和名で存在するので、その北方系の亜種としてナニワズと書かず、樹名板にはエゾオニシバリと書いた。ナニワズと書かずに御免ねと問いかけたら、美しい花はナニもいワズ、微笑んだ。

1月 ミチノクフクジュソウ(陸奥福寿草)キンポウゲ科

 1月下旬に入って、春めいた陽気の日も出てきた。そんな気温の上昇をいち早く感じてか、フクジュソウが咲き始めた。オッとぉぉ~!今、無意識にフクジュソウと書いたが、従来1種類だけと思っていたフクジュソウは、最近4種に細分類されたのだった。

①北海道から本州、四国に分布するフクジュソウ(別名エダウチフクジュソウ、Adonis ramosa、ramosa=枝が多いの意)。染色体=4倍体

②東北地方のみならず、本州から九州にかけて自生するミチノクフクジュソウ(陸奥福寿草、Adonis multiflora、multiflora=花が多いの意)、2倍体。

③北海道東部に稀産するキタミフクジュソウ(北見福寿草、Adonis amurensis、amurensis=アムール地方の)。2倍体。

④四国(徳島、高知、愛媛)と九州(宮崎)に稀産するシコクフクジュソウ(Adonis shikokuensis、shikokuensis=四国地方の)。2倍体の4種である。

上記のほかに、
⑤一般的にフクジュソウと言われ普及しているフクジュカイ(福寿海)と呼ばれる園芸品種がある。フクジュソウが大人気であった江戸時代初期以降、100種以上の園芸品種があった。そうした数ある品種の中で、フクジュカイは、大輪で多くの花を咲かせ強健なため、一般化され、広く栽培されていた。現代でも園芸店などで入手するのは、この園芸品種である⑤フクジュカイの可能性が非常に高い。種子が殆どできず、そのためか①フクジュソウと②ミチノクフクジュソウの交配種と見られている。

⑥青梅近辺に自生するのでオウメソウ呼ばれるフクジュソウである。①フクジュソウの原種であるという見方と、数ある①フクジュソウの園芸品種の1つであるという見方がある。青梅に自分の持ち山があり、そこで栽培している方からいただいたものが、観察園にもある。花は一重咲き、花色は少し黄緑色の楚々たる風情の花で、花と葉が一緒に出てくる。枝葉や花数は少なく、いかにも野生種の感がある。

 さて、写真では見分けづらいが、この花を②ミチノクフクジュソウと断定した。それは花弁の下に隠れている萼片が、花弁の長さの1/2以下であり、①フクジュソウの萼片は花弁と同等の長さか、少し短い程度という識別ポイントに従ったものである。園芸店からフクジュソウとして購入したのだが、実は②ミチノクフクジュソウであった訳だ。園芸店でもそうした見分けをせず、(総称)フクジュソウで販売しているのが実態である。

 そこで気になるのは、①フクジュソウの染色体のみがなぜか4倍体で、②~④は2倍体であることだ。則ち、今①フクジュソウと呼ばれている個体が、本当に原種なのか、それとも⑤フクジュカイあるいはそれに近い園芸品種なのかの疑問である。古い時代に⑤フクジュカイは広く販売・栽培されたので、原種の①フクジュソウと思っていても、園芸品種である可能性もある。①と⑤の見分けの識別ポイントが明らかでない。従って、観察園にて②ミチノクフクジュソウと⑥オウメソウは間違いないと思われるが、フクジュソウと名札を付けた個体は、今のところ①か⑤の識別が、恥ずかしながら出来ていない。それゆえ総称としてのフクジュソウと理解してもらうほかはない。間違いのない①と⑤を購入して、自分なりの識別ポイントを探そうと思う。

1月 コショウノキ(胡椒の木)ジンチョウゲ科

 コショウノキという名前だが、胡椒(ペッパー)が採れる木ではない。中国原産のジンチョウゲの仲間である。図鑑などの情報では、関東地方以西の太平洋岸~沖縄の、林内にやや稀に自生し、果実(有毒)が胡椒のように辛いことが名前の由来とある。筆者はこの苗を大分県佐賀関半島の、蛇紋岩の砂利が多い黒ケ浜近くの海岸林の樹下でみつけて、観察園で育てた。冬の1~2月に沈丁花に似て白い花が咲き、6月頃にクコ(枸杞)の実のような楕円形の赤い液果が実った。

 では、なぜコショウノキという名前がついたのか疑問が湧いた。思いついたのは、九州では唐辛子のことをコショウと呼ぶことだ。トウガラシはコロンブスによって米大陸から西欧に持ち込まれ、ポルトガル人により安土桃山時代頃に日本に持ち込まれ、栽培され始めた。唐から渡来した胡椒(=中国名で、胡の国の山の辛い実の意味)に対し、南蛮船によってもたらされたので、当初は南蛮胡椒とよばれた。胡椒は輸入品で高価なため、日本ではあまり普及しなかったが、唐辛子は全国に普及し、略称として東北・北海道ではナンバン、九州ではコショウ、と呼ばれるようになった歴史がある。

 辛いからコショウノキ(南蛮胡椒の木=唐辛子の木)と呼んだのか、赤い実の形から唐辛子を思いついたのか、確認したくなった。図鑑には有毒とあるので、恐る恐る一粒を口に入れた。辛くはなく、ほんのり甘い!!中の種子を噛み潰したが、無味であった。辛さからではなく、実の形から唐辛子を想像し、コショウノキと名付けたと推測した。

 だが、この判断は間違っていた。筆者と同様に好奇心から口に入れた御仁がいて、舌に猛烈な痛みが出て水泡が出来たとの、真実味のある情報が見つかった。ジンチョウゲ(Daphne odora)と同様に、ダフネチン(Daphnetin)という毒成分があり、舌に炎症を起こし、辛みというよりも強い痛みを感じたようである。

 小生はパン食の時でも水分を必要としないほど唾液が良く出るタチなので、すぐ吐き出したから毒成分の被害をうけなかったのだろう。今年は、痛みを覚悟して、しばらく口の中に入れて、辛さ(痛み)を確認してみたいと思っている。・・・・・物好きなヒマ人だねぇ。

12月 シモバシラ(シソ科)の霜の華

 シモバシラの枯れ茎に、冬の朝早く見られる霜の華。地下の根は生きていて、吸い上げた水が茎から染み出て氷結し、霜の華が咲く。

 地下は凍っておらず、気温が零度以下に下がった朝早くに見られる現象。観察園では地上40㎝の高さまで成長した。シモバシラだけでなく、同じシソ科のコウシンヤマハッカやカメバヒキオコシ、キク科のアズマヤマアザミ、カシワバハグマ、モミジガサほか、オカトラノオ、ミズヒキなどでも見られる。

シモバシラについての詳しい解説はこちら

12月 クリスマス・ホーリー(ヒイラギモチ) モチノキ科

 日本で節分の時に魔物や災難を避ける魔よけに使われたヒイラギ(柊)は、モクセイ科の植物で、常緑で、冬に暗紫色の実をつけ、葉に刺がある。一方、クリスマス・リースなどを飾る赤い実のヒイラギは、科が異なる全く別の植物だ。

 西欧ではモチノキ科で、ヨーロッパ西部・南部、アフリカ北西部原産の、セイヨウヒイラギ(Ilex aquifolium,European Holly)が使われ、日本ではその代替として、中国東北部・朝鮮半島原産のシナヒイラギ(Illex cornuta,Chinese Holly、ヒイラギモチ)が使われている。

 モチノキ科の植物は、冬にモチノキのほか、ソヨゴ、タラヨウ、ナナミノキ、アオハダ、など赤い実をつけるものが多い。ヒイラギの実の代わりに飾りとしてこれらの実を使ってもよいのではないかと思うのだが・・・・。

 セイヨウヒイラギは、①常緑で、②冬に赤い実をつけ、③刺のある葉を持つところから、古い時代のケルト人の祭司(ドルイド)は、魔力をもつ聖木と崇めていたが、その習慣がキリスト教にも伝えられ、クリスマスには欠かせない飾りとなったようだ。

 日本の節分のヒイラギは、鬼の目を潰す役目として魔力をもつと考えられていた。遠く離れた国ではあるが、同じような発想に興味が湧く。都市伝説の日本民族はユダヤ人(古代イスラエル人)が祖先であるという「日ユ同祖論」が、眠気と同時に、思い浮かんできた・・・・。少し、寝酒を飲みすぎたかな。